小規模農家を守り、レジリエンスを構築する(パート1)
2021年5月3日
今回のインタビューは、オイコクレジットのソーシャルパフォーマンス・イノベーション部のジン・レデスマ部長が、農業や食の安全確保が脅かされ、小規模農家のコミュニティが苦しんでいる問題に対して、「小規模農家のセーフティネット向上プログラム: SSNUP」(Smallholder Safety Net Upscaling Program)に携わるオイコクレジット及び他機関が、どのような取り組みを行い、どのような問題に直面したのかを2回に分けて紹介します。今回は、その第一弾です。
- 小規模農家はどのような問題を抱えていたのですか?何が農家をSSNUPへと導いていったのでしょうか?
ADAマイクロファイナンス機関の報告によりますと、世界の80%近くの貧困層が、農村に住んでおり、そのうち、5億人が小規模農家の世帯であると言われています。貧困削減に効果的なのは、農業以外のセクターの経済成長を促していくよりも、農業を成長させていったほうが、2〜4倍効果があると世界銀行で報告されています。しかしながら、小規模農家は、数多くの課題を抱えています。彼らは、不安定な価格の変動に弱く、資源、技術、情報、資金、知識、市場へのアクセスに大変乏しい状況です。
加えて、気候変動による影響がますます明らかになってきています。海面上昇による洪水が頻繁に起こっています。その一方で長く続く干ばつにより、土地が不毛になっており、人々は自らの居住区を移しています。その多くは、都市部への移住です。結果、食の安全確保は、危機的な状況になってきています。このような現実がある中で私たちが何らかの解決方法を見いださない限り、全てが手遅れになっていくだろうと思います。食の安全確保を守り、農村の貧困、小規模農家の生産性や所得、レジリエンシーの問題に対して取り組むためには、持続可能な農業に取り組む割合を相当に引き上げていかなければなりません。SSNUPとはそのために作られたプログラムです。
- SSNUPとは何ですか?そのプログラムがどのようにして小規模農家を守っているのですか?
SSNUPは、5つのインパクト投資機関により作られたもので、オイコクレジットもその中の一つです。その目的は、小規模農家の生産性、所得、レジリエンスにおける脆弱性の問題に取り組むことにあります。これは、10年プロジェクトであり、予算は5500万ユーロです。雇用創出やジェンダーの平等性にフォーカスしている責任のある農家と小規模農家の取引を持続的に向上し、バリューチェーンを構築するために作られたプログラムです。
このプログラムにおける、インパクト投資機関の役割は、農村地域における専門性、十分な資金力、アジア、アフリカ、ラテンアメリカにおける1000万以上の小規模農家世帯にセーフティネットをもたらす力を持っていることにあります。このプログラムにより、5000万もの小規模農家の貧困層に恩恵を与えることができます。このプログラムは、3つのフェーズにより構成されており、オイコクレジットは、最初のフェーズの責任を担っており、2021年1月にプログラム実施の承認を得ました。私たちのフォーカスは作物や農業関連する商品の価格変動におけるリスク管理と天候インデックス保険の取り組みです。
SSNUPは、このような農業のバリューチェーンの構築をしていくだけにとどまらず、SDGsの中でも7つの目標、「貧困をなくそう/飢餓をゼロに/ジェンダーの平等を実現しよう/働きがいも経済成長も/つくる責任つかう責任/気候変動に具体的な対策を/陸の豊かさを守ろう」にも大きく貢献しています。
- SSNUPにはどのような機関が関わっているのでしょうか?
このプログラムは、ルクセンブルグ開発局(Lux Development)の協力により、スイス国際開発協力機構(Swiss Agency for Development and Cooperation)とルクセンブルグ局国際開発人道支援機構(Luxembourg Directorate for Development Cooperation and Humanitarian Affairs)により作られてものです。プログラムのコーディネート役は、ADAマイクロファイナンス機関が担っています。インパクト投資機関としては、オイコクレジットの他、4つの大きなインパクト投資機関、すなわち、グラミンクレジットアグリコールファンデーション、インコフィン、レスポンスアビリティ、シンバイオティクスが関わっています。このプログラムは、これらのインパクト投資機関が実際にプロジェクトを実施し、携わっている地域の経験と専門性に大きく依存をしています。
- SSNUPのユニークなところは何でしょうか?
はじめに、このプログラムは5つの大きなインパクト投資機関が集まって作られたことです。資産は、9200億から3億5000万ユーロに及びます。それらの機関のポートフォリオの10〜100%は、農業関連のセクターからのものです。そのような機関が一同に小規模農家の課題に取り組む設定は、大変新しい取り組みです。したがって、私たちの考えや行動も大きくなります。それは、小規模農家を強く、レジリエントに支援していく革新的な取り組みを一緒に実行していけるからです。
- なぜオイコクレジットがこのようなプログラムに参加しているのでしょうか?
私たちの心は、常に農業とともにあります。農業の生産性と持続可能性を増やしていくこと、小規模農家の生活を向上していくことは、オイコクレジットの活動の原点で、活動における最もコアな部分にあります。私たちの活動において農業は、異なる事情と不安定さが絡み合っているからこそ、主要な課題として常に取り上げられています。貧困層の多くが、農村にて生活しており、必要な支援を得られていないこと、農村地域が気候変動に対して最も脆弱であることは、私たちも十分認識しています。したがって、長期的に貧困を解決していくためには、農村で生活する人々のレジリエンスを強化していかなければなりません。
SSNUPが、天候インデックス保険を持つことができるようになった小規模農家のセーフティネットを高め、気候にあった農業を紹介し、資金へのアクセスを改善し、最新のテクノロジーとトレーニングを受けられる機会のあるプログラムであるということを学んでから、このプログラムにオイコクレジットはすぐに、参加することを決定しました。このプログラムに対して、私たちのソーシャルインパクト管理、キャパシティ・ビルディング、農業についての専門性が活かされるということがすぐにわかったからです。私たちには2つの期待があります。まず、私たちの農業におけるパートナーとの仕事がより安定すれば、私たちの農業ポートフォリオを更に広げることができます。同時に、より強くなったパートナー組織は、より魅力的であり、オイコクレジット外からのドナーを増やすことができます。そして、それらが、世界中の小規模農家に必要とされている支援や市場、リソースと平等で利益分配型のバリューチェーンへのアクセスを増やすことができるであろうと理解をしています。
次回のインタビューでは、天候インデックス保険によりオイコクレジットがどのようにしてSSNUPに貢献しているかを紹介していきます。
天候インデックス保険とは
- 損害と関係がある、天候指標(気温や降水など)を定め、それが事前に定めた条件を満たした場合に、土地規模あたり定額の保険が支払われる保険。
- 実際の損害とは関係なく、天候指標ベースでの保険金支払いとなるため、保険金支払いの際に損害調査を要しない。
したがって、保険の内容がシンプルで、早期の保険金受取を可能にしたシステムとなっています。