11月16日のマイクロファイナンス・フォーラムは、「収益性とソーシャルインパクトの両立に向けて」という大きなテーマのもと約100名の参加者を迎えて開催、内容も大変に充実していたと好評でした!その概要をご報告します。
パート1: Living in Peace慎代表より「MF貧困削減投資ファンドを振り返る」
・これまで投資先の3MF機関を通して10万人以上の人々、特に女性に融資を提供してきた。MF機関も、女性自立のプログラムなど、金融以外のサービスも行っている。
・これまでの学びとしては、MF機関のガバナンスに構造的な欠陥がある場合は投資しないこと、また信頼関係を築くことでリスクを削減することが挙げられる。
・貧困削減効果の測定や報告がまだ十分にできていないことが課題である。中小のMF機関にとってあまりコストがかからない方法が必要。
パート2: 埼玉大学教授 CGAP会長 辻先生より「MFに対する社会的投資および社会的成果モニタリングの現状」
・社会的な成果と収益という2つの目標を達成するのはMF機関の役割だが、投資機関や投資家は継続的にそのインセンティブを与える責任がある。またどのように達成されたかのモニタリングが非常に重要。
・社会的成果には、消費者保護と、社会的目標の達成の2つがある。金融のみで貧困削減はできないが、顧客に変革を与えることができる。
・融資だけでなく預金や保険も含めた全ての金融サービスを使うことで、顧客にどういう影響があったのかのモニタリングが必要。短期的にはコストがかかり効率化がポイントだが、長期的には顧客拡大やサービスの質改善などの効果が期待できる。
・投資家が社会的業績に関心を持ち、ファンドやMF機関に影響できるかが重要。MFが社会的業績を上げるには非金融サービスの提供や顧客の能力強化も重要。投資家も配当が減っても、収益をこれらに使うことを認めるか?
・MF機関への資金供給は、預金動員のインセンティブを減じる可能性がある。ファンドや支援機関は、MF機関が預金動員できるような能力強化をすることも重要。
・包摂的金融は、包摂的な成長にとっての必要条件。民間が社会的に意義ある事業を追求できるよう、政府が環境を作る役割がある。MFは途上国や新興国が生み出した革新的な取り組みで、そこから先進国は学べる。また、途上国の貧困層の知恵から学び、そこから新しいサービスを提供するという姿勢が重要。
パート3 「収益性とソーシャルパーフォーマンスを両立させるための取り組み」
・オイコクレジットは1975年に設立された国際開発協同組合で、世界の支援組織から出資を集め、貧困緩和や社会的意義のある活動に投資(融資・出資)してきた。
・資産は順調に伸び、2013年の開発融資残高は約6億ユーロ。MF投資が全体の8割をしめ、MF投資組織として世界で最大級。世界に広がる地域事務所や国事務所がプロジェクト発掘と管理の拠点になっている。
・オイコMF投資の特徴として、小規模な機関やより貧困な国への投資が多い。他の運用機関に比べ、早い段階から社会的業績管理(SPM)を導入、地域事務所数や職員数も多いのできめ細かい対応が可能。また、MFの他に、農業関連事業等も支援。
・オイコの社会的業績戦略には、適切なパートナー(投資先)選び、パートナー支援、SPMを推進する活動がある。
・適切なパートナー選択は、オイコの開発目的を達成する上で最も重要。低所得層の雇用や所得の創出などいくつかの基準があり、財務・社会・ガバナンス・環境の面で審査を行う。社会・ガバナンス・環境面では、ESGスコアカードを使い、投資先の貧困層への到達度、顧客の便益と福祉、社会的業績とガバナンス、コミュニティや職員への責任の4つの分野での40以上の指標に基づき、詳細に分析する。
・パートナー支援は、投資先が顧客により良いサービスを提供できるよう、指導や能力強化などを行う。例として、財務・社会データソフトの開発、貧困脱出指標の促進、各パートナーが課題を分析し行動に移すためのメンタープログラムがある。
・オイコは、社会的業績管理タスクフォース、顧客保護のキャンペーン、情報の透明性の推進など、セクターの様々な取り組みにも積極的に参加している。
・パートナーの能力強化にも取り組んでいる。中米地域の例として、リスク管理やコーヒー栽培の技術指導がある。
・オイコの社会的業績の主なデータとして、MFパートナーの総顧客数2800万人、うち女性が81%、農村部が47%、5割のパートナーがジェンダー政策・環境政策を持っていることが挙げられる。社会的事業パートナーでは、総雇用数が46,607名。
・オイコは、様々な地域の農村部・都市部の様々な規模のMF機関や信用組合や協同組合、農業や零細中小事業、再生可能エネルギーなど、多様な分野・パートナーに投資。重要なのは、ビジョン、ミッション、価値、原則を共有していること。
パート4 パネルディスカッション「貧困削減を達成するためのMFIへの投資」
1)SPMでどれだけ社会的業績を評価できるのか。
辻氏: MIXでは、約千のMF機関がSPデータを報告。社会的格付けもある。その他に一般投資家が各MFIの社会的業績のデータを取るのは不可能。社会的責任あるパートナーを増やし、制度的な枠組みやインフラ、MF機関の能力強化が必要で、民間資金が社会的目的のために使われるようにならないといけない。
2)SPMのモニタリングコスト
Lianna氏: 全ての機関が社会的ミッションを理解して、実施することが重要。現地コンサルも育成したが、コンサルや大きな資金がいつも必要な訳ではない。
辻氏: モニタリングにはコストはかからない。しかし、課題が見つかった時にどのように能力強化するかについては、それなりのコストはかかる。
3)投資先との関係
Lianna氏: 投資先が社会的事業をやらなくなった時に関係を打ち切る場合はある。選別を慎重に行い、結婚のように長期の関係を重視。
4)MF機関の預金動員とSPMの関係
辻氏: 貧困層は預金できないというのは誤りで、MF機関が適切な預金商品を提供していないだけ。SPMの規律付けに海外資金が必要ということはなく、株主と顧客、規制当局のやり方次第。SPMの提示には、収益だけを求める投資機関が出て、業界が危機感を持ち投資機関も教育する必要があるとの理解があった。
5)高金利で収益を上げ資金を集めるMF機関について
辻氏: 貧困ビジネスを助長するようなファンドに対しては、国際機関が原則を作って推奨するなどの啓蒙をするしかない。また、MF顧客が選択肢を持ちサービスの内容について理解できれば、貧困ビジネスプレーヤーを市場から追い出すことは可能。なので、投資家と顧客への働きかけが重要。
岡本氏: 投資家にMF機関が課している金利を示すことも重要。
Lianna氏: オイコはMF機関の金利が責任ある程度で透明でないと投資しないという方針を決めた。従って金利構造もチェックしている。
6)最後の感想
辻氏: 究極的には、個々のMF機関が顧客の社会的変化をどう促せるかにかかっている。貧困削減効果のモニタリングや調査は、いかに顧客に大きな負担をかけず、コストもかけずにできるかが課題。顧客を中心にするというのが最も重要。
岡本氏: MFにも様々なプレーヤーが出現し、MFというだけで社会的に良いとは言えないため、投資には慎重な検討が必要。またMFだけでは貧困削減はできず、貧困脱出にとってのボトルネックを調べその打開に資金が回る仕組みが必要。
Lianna氏: オイコはMFが世界の開発目標の達成に貢献していると考えるが、全ての人の貧困の万能薬とは考えていない。どのようにパートナーと一緒に開発課題を解決していくかを追及している。投資家もパートナーも、顧客に害を与えない、サービスは顧客のニーズに合わせて設計しないといけないと理解している。
慎氏: LIPは、現在に企画しているファンドも含めてSPMを導入する予定。ボランティア組織としてコストのかからない形でできることも多いと思うので、もっとできることがないか、検討したい。